インドカレーについて
日本で食べられる北インドの料理は大きく「パンジャーブ料理」と「ムガル料理」の2つに大きく分けられます。
パンジャーブ料理は、インド北部からパキスタンにまたがるパンジャーブ地方の料理のこと。ナンやタンドリーチキンなどのタンドール窯を使った焼き物、アルゴビ(ジャガイモとカリフラワーの炒め物)といった野菜を使った料理、バターチキンカレーやパラクパニール(カッテージチーズとほうれん草のカレー)などの良質な乳製品を使ったカレーが有名です。
ムガル料理は、ムガル帝国(16世紀~19世紀にインドを支配したイスラム王朝)の宮廷料理のことで、カシュナッツや生クリームをたっぷり使用します。キーママター(ひき肉と豆のドライカレー)、ムグライ・ムング・ビリヤニ(ムガル式のチキンビリヤニ)などがあります。
インドカレーというとまず思い浮かべることが多いのが、いわゆる北インドカレーです。
インドの国土は大まかに、東西南北の4つ(または北東インドを加えて5つ)の地域に分けられます。首都ニューデリーのある北インドは、16世紀からおよそ300年間、トルコ系イスラム王朝ムガール帝国の支配下にあり、アフガニスタンやペルシャの影響を受けて、小麦から作るナンやチャパティを主食にしてきました。シナモンやクローブ、ナツメッグ、ガラムマサラを使った、どろっと濃厚なカレーが特徴的です。イスラムの影響により、肉料理の種類も豊富です。「ムルグマッカーニ(バターチキンカレー)」や「キーママター(キーマカレー)」、「タンドリチキン」、「パラクパニール(ほうれん草とチーズのカレー)」などが代表格。それに対して、アーユルヴェーダのお膝元で、インド古来のドラヴィダ文化が今も息づく南インドは、米を主食に、カレーリーフやマスタードシード、ココナッツミルクを多用したさらっとしたカレーがよく食べられています。野菜とヨーグルトのカレー「アヴィヤル」や、辛みと酸味のきいたタマリンドや黒コショウ、トマトなどのスープ「ラッサム」、スパイスで炒めたじゃがいもなどを豆粉のクレープで包んだ「マサラドーサ」、またバナナの葉の上にさまざまなおかずを乗せた定食「ミールス」などがポピュラーです。またアラビア海側のマラバル海岸は、紀元前から栽培されていたこしょうを求めて16世紀にポルトガルの航海者バスコ・ダ・ガマが上陸した地であり、今もなお良質なこしょうが生産されています。
東インドは、コルカタ(カルカッタ)周辺の「ベンガル料理」がよく知られており、米を主食に魚をよく食べる、日本とよく似た食文化です。マスタードオイル、マスタードシード、ターメリックなどを使った「マチェル・ジョル(ベンガルフィッシュカレー)」が有名です。また西インドは、厳格な菜食を教義とするジャイナ教のお膝元グジャラート州の定食「グジャラティターリ」が名物。マハトマ・ガンジーの出身地でもあり、彼はヒンドゥー教徒でありながら、この地の食文化の影響を受けて厳しい菜食主義を守っていたといいます。ジャイナ教ではターメリックやしょうが、にんにくなど、植物の命の源と考える根のスパイスやハーブもタブーなのですが、乳製品や砂糖は摂ることが可能で、限られた食材をおいしく食べる補強材になっています。なお西インドでは、小麦のパンと米の両方が主食です。
宗教別に料理の特色を見ていくと、まずヒンドゥー教は、牛を神聖視しているため、牛肉は食べません。カーストによる身分制度があり、地域差もありますが、特に高位カーストの人々は肉食自体を避け、厳格な菜食主義を守る傾向にあります。またイスラム教は豚肉を禁忌としていますが、インドではヒンドゥーの影響で牛肉自体が手に入りにくいこともあり、鶏肉や羊肉のカレーが多く見られます。仏教では肉食自体は禁じられていませんが、好んで肉食をする人は少なく、刺激の強いスパイスも避けられる傾向にあります。キリスト教も肉食を禁じておらず、カトリック教徒の多い旧ポルトガル領のゴアなどでは、牛肉や豚肉を使ったカレーもあります。北部のパンジャブ州を拠点としているシク教には、一部宗派を除き食べ物の禁忌は特にありませんが、どんな宗教の人も入れるシク寺院では、誰もが食べられるように菜食の食事を提供しています。なおインドを含めた南アジアや西アジアでは伝統的に、宗教を問わず右手で食事をする文化が息づいてきました。理由は衛生面(左手が不浄といわれる)のほか、食べ物は神から与えられた神聖なものであり、道具を使うのは失礼に当たるという概念があるためです。
とろみの強い濃厚なルーが特徴で、ガラムマサラといういくつかの香辛料をブレンドしたスパイスを使用します。牛乳や生クリームなどの乳製品を使い、具材もチキンやマトンなど肉類が中心なので、こってりとした味わいに。
日本でも人気のバターチキンカレーは、北インドカレーに該当します。同じインドカレーでも、北と南でどうしてこんなに違うのでしょうか?
その理由は「気候」にあります。1年を通して暑い南インドに比べ、北インドでは冬期は5~8度も気温が低いのです。そのため、北インドでは脂肪分の多いこってりしたカレーで体を暖め、反対に南インドでは水分の多いあっさりしたカレーで暑さをしのいでいるんですね。
また、カレーと一緒に食べる主食も、北インドではナンやチャパティなどパンに近いもので、南インドでは米。寒い時期もある北インドでは小麦の栽培が盛んで、温暖な南インドでは稲作がポピュラーなのです。
北インドカレーは南インドカレーとは真逆の、とろみの強い濃厚なルーが特徴。スパイスには、南インドでは使用しないガラムマサラを使います。ガラムマサラはいくつかの香辛料をブレンドしたもの。家庭によって、配合の割合や分量に違いがでます。
牛乳や生クリームなどの乳製品やカシュナッツを多用するのも、北インドカレーならでは。油脂が多い素材を使ったカレーは、こってりとした印象です。 北インドの主食はチャパティや、パラタ、ナンなどの小麦粉をこねて作ったパンの類。カレールーにひたしたり、包んだりしながら食べます。